米州人権裁判所、気候危機と人権に関する諮問意見を公表
2025.07.26
2025年7月3日、米州人権裁判所(IACtHR)は、気候非常事態と人権に関する諮問意見(Advisory Opinion: AO-32/25)を発表し、自然を権利の主体として明確に認める初の国際司法判断を示しました。
この意見では、「健康な環境への権利」が人権として独立したものであることを再確認し、その中に「健康な気候」への権利が含まれること、さらには、自然自体が「本来的に保護に値する存在」であるという、生態系中心的な視点(エコセントリズム)を採用しています。判決はまた、国家には単に環境破壊を避ける消極的義務だけでなく、生態系の再生と回復を促進する積極的義務も課されると述べています。
本判断では、気候変動が女性や先住民族、LGBTIQ+コミュニティなどに与える不均衡な影響にも注目し、国家がジェンダーや多様性に配慮した政策をとる必要があることにも言及しています。加えて、不可逆的な気候破壊を引き起こす人為的行為の禁止は、もはや任意の政策判断ではなく、国際法上守るべき義務であると判断しています。
こうした判断は、プラネタリーヘルスの国際法的な基盤を検討するにあたり意義があると思われます。プラネタリーヘルスは、人間の健康と地球の自然システムとの相互依存性を強調する概念であり、今回の諮問意見は、まさにこの関係性を法的意見として明瞭にしたものといえます。人間の権利と自然の権利を相補的に位置づけた今回の判断は、今後の国内政策、企業の責任、そして気候正義の枠組み形成に深い影響を与えるものといえるでしょう。